発酵のこと

発酵のこと

発酵とは

はちみつには天然由来の微生物が生きています。

しかしはちみつのような高い糖濃度と、低い水分濃度の環境下で微生物は活動することができません。そんな中でも高い糖濃度に耐性を持った酵母菌がいます。発酵はこの酵母菌が活動するときにおこる現象です。はちみつが発酵すると成分にも変化が起こりますますが最初に現れる変化は見た目です。

 変化1.はちみつは発酵する過程で炭酸ガス(二酸化炭素)が発生します。(画像??瓶詰め時にできる泡と、発酵の泡の違いを併せて)

 

最初はブクブクとした泡がはちみつ内に発生します。密閉された容器では蓋を開けた際に「ブシュ‼」っと音がします。この発酵はいわゆるアルコール発酵※1と呼ばれるものではちみつに占める糖(特にブドウ糖)を発酵させる現象です。成分の変化で起こることは、糖が減少し、アミノ酸とアルコールが増加します。(他の成分にも影響しますが微量のためここでは省きます。)これらの加減はミツバチの種類や蜜源植物の違い、酵母菌の働き方の違いで変わってきます。そして成分の変化によって現れる違いは風味です。

 変化2.なんとも酸っぱい香りがただよう。口にした人によってはアルコールを感じる。

 

風味は良くも悪くもといったところでしょうか。アミノ酸は旨味の成分なんていわれますが人によって好き嫌いが分かれるところでもあります。独特な風味は発酵食品の特徴ともいえますが、はちみつに関して知られるのはちみつ酒(Mead:ミードと呼ばれる)でこの発酵を利用したものです。(画像)

※1.一般的に微生物は空気があるところで活動します。しかし酵母菌は空気がないところでも活動(嫌気性呼吸)できます。空気が無いはちみつ内で、なるべく居心地の良い空気を作り出そうとします。これが炭酸ガスであり、副産物がアルコールです。

 

発酵が進む条件

本来、はちみつは発酵しづらいものです。長期保存が可能な理由そのままです。ただ「する」ではなく、「進む」と書いたのは、はちみつは発酵食品として分類はされませんが、酵母菌が存在することが当たり前であり、いつ、どこで発酵するかは、はちみつの成分もとより日数の経過をはじめ、保存状態、環境によっても多大な影響を受けてしまうからです。

条件は目安であり、文字や記号でくっきり線引きできるものではありませんが発酵「する」「しない」の二択で答えるならば、はちみつは発酵「する」食べ物です。(結晶する、しない同様の話です。)

条件は長期保存の理由の逆パターンと考えてください。発酵すること=微生物が活動することと同義と考え、要因として大きいものから順にあげていきます。はちみつの成分についてのページと重複する内容がふくまれますが併せてご覧ください。

 条件1.水分が多い。(糖度が低い。)

 

はちみつは水分の多かった花蜜が、水分の少ないドロドロの液状とも、固形とも言い難い特殊な状態に変わったものです。採蜜の現場では水分が少なくなって蜜蓋がかかったはちみつを採集します。この時、目安になるのが糖度※2です。糖度にして78度以上あると水分が少ないはちみつとされます。国産と海外産では目安の糖度が違うのですが、日本をはじめ、開花期や訪花時の天候不順が続いたり、雨季があるような湿潤な環境では糖度が安定しないことがあります。発酵に限らず長期保存が可能になる目安の一つです。

水分が多いとなぜ発酵が進むかというと、酵母菌をはじめ一般的な微生物は水分があるところを好んで活動を始めるからです。よって水で希釈するとほぼ必ず発酵します。水分を含んだ果実や野菜を漬け込んでも同様です。はちみつを花蜜に戻してしまうイメージです。

※2.糖度とは、糖の水溶液としての糖濃度を示すものです。Brix屈折計を用いて計測します。

 条件2.保管時の温度が高い。

 

はちみつは常温で保存できます。常温といっても夏季と冬季で事情が変わります。昨今、夏季は30度を超える暑い日が続きます。一般的に酵母菌が活動する最適温度は30度~35度と言われ、夏場の空調の効いた屋内でも直射日光の当たらない冷暗所で保管すると良いです。逆に冬季の寒い気温では結晶が起こりやすくなります。

 おまけ条件.容器の半分くらい結晶したもの。


おまけ条件と書きましたが、稀に見かけるケースだからです。

結晶が始まると、徐々に微量な水分を押し出す形で進行します。相対的に結晶の層(水分が減った層)と、はちみつの層(水分が増えてしまった層)に分かれたように考えられます。分離とは言わないまでも水分が移動してきたはちみつの層が、上記の条件に当てはまりやすくなり発酵する場合があります。日数次第と、酵母菌の気分次第でしょうか。画像(炭酸ガスと一緒に結晶が浮いたもの。)

 

発酵は不良品か?

はちみつが自然の産物である以上、発酵もまた自然の産物です。よって不良品ではありません。飼育するミツバチの種類※3によっても、採れるはちみつの水分量が変わってきます。発酵することを前提としたはちみつと、発酵しないことを前提としたはちみつでは賞味期限も違います。(場合によっては消費期限が必要です。)

問題は多くのはちみつが、人工的に流通させる必要があるうえ、表示を含めた制度、販売の制度上、発酵したはちみつに関しては不良品として扱われます。時間が経過して過度に発酵が進んだものは、炭酸ガスにより密閉容器の蓋を押し上げるほど膨張し、圧力によってはガラス容器などが破裂することがあるので注意が必要です。また、発酵は名称表記にある「はちみつ」とは違う物質、別の何かに変えてしまいます。いわゆる量販店や小売店でこういったはちみつはほとんど見かけません。よって

販売する人にとっては不良品。

購入する人にとっては良品にできる珍味。

(ミツバチにとっては好き勝手言ッテルナー…くらい。)

中には発酵したはちみつを好んでお求めになる方もいらっしゃいます。どうぞ発酵もはちみつの楽しみ方の一つとしてご承知いただければと思います。

※3ミツバチの習性上、広く飼育されるセイヨウミツバチのはちみつは水分が少なく、ニホンミツバチのはちみつは、水分が多くなります。日本でセイヨウミツバチが普及する明治より前の時代、江戸の人々が食べていたのはニホンミツバチの発酵したはちみつだといわれています。

最後に。

はちみつに限ったことではありませんが、夏の炎天下、駐車した高温の車内にはちみつを長時間放置するのは絶対におやめください。どんなに水分が少なくても、発酵による容器の液漏れから成分変化、酵母菌の死滅まで一気に起こります。いただき物のはちみつや包装されたはちみつギフトなどは要注意です。

また酵母菌は活動して増殖したあと、時間の経過とともに減少して活動が止まります。微生物が苦手な酸ですが、アルコール発酵の特徴として酸性の成分も同時に生成し、また酵素グルコースオキシターゼが再び働き過酸化水素を発生させることが知られています。これらは抗菌作用に期待できるものの、炭酸ガスの発泡が収まるころには効果も収束してると考えてください。

よって発酵したはちみつを召し上がる際は冷蔵保管をお勧めします。

 

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