長いので目次。
- はじめに
- ろ過
- 湯煎と温度
- 気泡と糖度
- 加熱と非加熱について
- 最後に
1,はじめに
はちみつは科学工場で人工的に合成されたり、天を仰いで魔法を唱えたらポンと現れるものでもありません。言葉にするまでもなくもともとは、はちみつはミツバチのご飯です。我々ヒトが勝手に横から拝借しているに過ぎません。そのミツバチは山野の茂みの中、風雨に晒された巣箱を寝床に活動します。つまり自然の中です。
蜂を飼育する以上、ミツバチをはじめ巣箱の管理こそ人の手が必要ですが、はちみつが自然のままであることが第一に。瓶詰めの作業はあまり人の手が加わらないようシンプルな工程を心がけます。
唯一、人工的な作業を挙げえるとするならば「ろ過」です。

元気に育つことを願って。行政によるミツバチの生育監査の様子。
2,ろ過
自然の中に置かれた巣箱はいろいろな不純物に晒されることになります。販売されるはちみつに入っていて良いのは「はちみつ(当たり前)」と「花粉※1」くらい。他に入るのは植物の一部、巣の一部、時にはミツバチの一部。本来これらもはちみつの一部と考えたいくらいです。
しかし採蜜時には燻煙器をはじめ保管用の一斗缶※2まで様々な養蜂具に囲まれ、巣枠や巣箱の一部、木片や金属片、環境によっては硬い鉱物やミツバチ以外の虫が混入する恐れがあります。ろ過をするのは、異物混入を防ぐための衛生上の都合です。ここに国産も海外産も変わりはありません。


燻煙器(上)と濾し器(下)
一般的に採蜜時には一度、ザルのような粗いろ過が行われます。遠心分離機にかけられたはちみつを吐出口から流す際に行うのが一般的です。目に見える程度の大きさのものはここで取り除くことができます。もちろんこの時点で瓶詰めすることも可能ですが、製品として販売するためのはちみつは、丁寧なろ過を行うため、清掃された屋内の作業場で行います。そしてろ過と併せて瓶詰め作業も行います。
※1、国によっては花粉が無い方が良いとされます。日本やヨーロッパでは花粉ははちみつの一部として考えられており、どちらが正しいかは意見が様々です。
※2、食品保管用にコーティング加工済みスチール製の缶です。

一斗缶。昔からお付き合いある東北の養蜂家さん宅にて。
3,湯煎と温度
ろ過について説明する際、必ずセットで説明するのが「湯煎」です。言葉は分けましたが作業をする当事者としてはほとんど、同じ作業です。湯煎をするのはろ過をするためという意味です。
はちみつは非常に粘度が高い食品です。求めが無ければザルのようなろ過でも済ませられますが、使用するろ過機器のメッシュ目開き※3では、湯煎をして粘度を下げないとろ過できません。特に弊社では金属片の混入を予防するため、強力な磁気を帯びたマグネットを併用します。完全な液状である必要はないものの、粘度が低い状態でなければマグネットが機能しません。何より一番大きな理由は、結晶(固形化)してしまったはちみつはろ過機器を通らず、びん詰すらできなくなってしまうからです。そのための湯煎です。
これら異物混入予防に使用する機器について、それ自身が欠損等で混入物とならないよう十分な管理を行います。異物の巻き込みによって機器の損傷に繋がらないよう、保全の観点からもろ過は大変重要です。

タンク型のろ過機器で異物や結晶の程度が確認できます。
湯煎は採蜜時に使用した一斗缶のまま行います。大きめのお風呂(温水槽)に浸すくらいに考えてください。弊社では作業前日の深夜0:00前後から水張りを開始します。一斗缶の半分ほど浸るように水量を調整し、翌朝の開封時に中心温度50℃くらいになるよう温度を調整します。50℃くらいないと結晶は溶けないという意味です。ちなみに一斗缶を缶上部まで浸すことはしません。底部からゆっくり時間をかければ結晶は十分溶けます(たまに頑固な奴もいますが…)。
開封のために一斗缶を引き上げると、湯の体積が減り、一斗缶が浸かる表面積は小さくなっていきます。よってはちみつが過度に温められることはありません。

湯張り(0:00)を始めて開封前(8:30)の湯煎温度とはちみつ温度。
湯煎時間や湯煎温度は、はちみつの状態も加味し、夏季や冬季によっても調整します。
はちみつの主成分である糖は比熱が低い物質といわれます。単純に考えれば水より温まり易いはずなのですが、はちみつは事情が違います。密度(質量※4)そのものが大きく、非常に高い粘度になるため、対流(循環)も起きづらく、なかなか水と同じようには温まりません。特に結晶が進んだ状態では吸熱スピード※4も遅くなります。はちみつは「熱しづらく、冷めづらい」のが特徴です。よって
50℃という温度は結晶も溶けて、余熱でビン詰めできる温度ということです。また弊社では充填機自体に加温装置はありません。(無駄な湯煎、無駄な加温はコストの無駄だからです。)
※3、一般的な花粉の大きさは形状にもよりますが直径0.03mm(30μm)といわれます。ろ過に使用するステンレスメッシュ50は目開き0.3mm(300μm)。ナイロンメッシュ100は目開き0.1mm(100μm)ほどです。ろ過は花粉を取り除くことが目的ではありません。
※4、比重でいえば水の1.4倍くらいになります。容量18Lの一斗缶に入れた水は重量18kgですが、はちみつでは25kg近くになります。
※5、結晶に熱が伝わり40℃になると融解スタート。溶ける融解ピーク温度は50~55℃ほど。融解ピークは水分の少なさや結晶の程度によっては60℃くらいまで推移します。つまり初めに結晶がある程度溶けないと、はちみつに熱が伝わらないイメージです。

充填機器。巻き込み注意のローターが回転してはちみつを送り出します。
4,気泡と糖度
ろ過をした際にはちみつに細かい気泡が発生することがあります。水の気泡と違い、弾けて消えることがありません。瓶詰めした後、はちみつ上部に白く層となって現れることがあります。気泡はゆっくりと上昇し、消えることなく溜まるからです。

泡が層となって残る様子。
これははちみつの粘度が非常に高いため起こる現象であり、少ない水分量に対して、糖の濃度が高いためです。この糖の濃度を「糖度」といいます。甘さの程度を表す指標ではありません。あくまでも「水溶液としての糖の濃度」です。見方を変えれば水分量も判断できます。
養蜂の現場でも広く使用されるBrix屈折計(糖度計)という便利な分析器があります。もともとBrix(ブリックス)は水溶液に溶けた成分の濃度を示しますが、はちみつの場合ほぼ糖分しか溶けていません。よって屈折計の値≒糖の濃度として考えます。
厳密にはショ糖の濃度を計測するものですが、果糖やブドウ糖の量にばらつきがあるうえに、それ以外の微量な糖や極少な成分が溶けたはちみつは、誤差を含めた計算を行うと大変乱雑な作業になるため、ほぼ同量として考えます。
はちみつ品質の糖度は、国産はちみつで78度以上、海外産はちみつで80度以上とされています。糖度80度で水分濃度20%くらいになると考えてください。国産はちみつの糖度が低いのは開花時の天候、気候に影響されやすいからです。日本の風土では昔から湿潤で雨が多いため、糖度が上がりづらいという意味です。
ちなみに糖度が78度満たないものは水分量が多いはちみつと考えます。この場合、糖の発酵が起きやすく、長期保存が難しいはちみつになります。もっと難しいのは、糖度や水分量を満たしても発酵する場合もあります。
詳しくはQ&A,発酵のことをご覧ください。

国産れんげ蜜の糖度。プリズム面が汚い!?のはご愛嬌。
本当はもっとくっきり境界線があるのですが、撮影のテクがなくてすいません。
期保存が難しいと書きましたが、言い換えると「製品として流通させるのに難しい」といった方が正しいと思います。
- ラベル表記された製品「はちみつ」としての保存方法、賞味期限が変わります。(冷蔵保存が必要になります。
- 発酵に伴う風味の変化は、ラベル表記された製品「はちみつ」ではありません。(作用する酵母菌次第でもありますが、一般的に糖はアルコール発酵します。)
- 流通時、発酵に伴う炭酸ガスの影響で容器の膨張、液漏れ、破損の可能性があります。
以下、誤解と語弊を恐れず申し上げれば、店舗様やご自宅の棚が汚れることを恐れないのであれば、個人で楽しむ嗜好品として召し上がる分には問題ありません。身近なところで果実や野菜を使用した〇〇のはちみつ漬けは発酵が見られ、、時代を遡れば発酵現象の代表例ははちみつのお酒です。現在、こちらは保存が効きます。

流通用のはちみつにキャップシールを装着
糖度が極端に低いはちみつは採ってはいけないはちみつです。魚釣りでいうリリースサイズです。しかしミツバチを取り巻く自然環境は単純ではありません。どうしても糖度が上がらないはちみつも見受けられます。弊社では扱いませんが、糖度が低いはちみつを見かけた際は、未だ「はちみつ」になれない「花蜜」くらいに、熟成途中の珍味くらいに思ってあげてください。きっと「はちみつ」以上に栄養素も酵素もいっぱいでしょう。
販売や流通制度の都合上、はちみつは
「数値、記号、言葉」で狭く定義されますが、
「純粋、天然、自然」のはちみつは、
もともと広い世界の産物であるとお見知りおきいただければ幸いです。
(二ホンミツバチのはちみつがいい例かもしれません。)
5,加熱と非加熱
弊社をはじめ、日本の多くの養蜂業者は、「はちみつ」製品に対して煮沸殺菌のような高温による滅菌処理を行いません。一般的な生鮮食品(肉や野菜、飲料)に対する加熱処理の「加熱」でないことをご理解ください。
昨今、加熱はちみつと非加熱はちみつという言葉を耳にします。「加熱はちみつ=悪」で「非加熱はちみつ=善」というニュアンスです。(さすがに非加熱はちみつ=本物は、誇大な表現と感じます。)
弊社ではそれらのはちみつに優劣をつけておりません。はちみつの利用目的の違いくらいに考えた方が良いと思います。もし違いがあるとするならば、
「非加熱はちみつの方が自然の風味が生きている。」
と申し上げます。非加熱はちみつは風味にこだわる方向けの商品です。
はちみつに占める糖の特性になりますが、微量に含まれるアミノ酸と糖が反応※6して色味の褐変と、芳香成分を生成する化学反応があります。はちみつのような酸性下では進行は遅いといわれますが、低温保存でも徐々に進行します。
逆に酸性下にある糖(この場合は特に果糖)がH.M.F(ヒドロキシメチルフルフラール)という成分に変わる反応※7もあります。これも褐変と、風味の変化を起こす化学反応です。どちらの反応もかなりの日数を要しますが時間経過によって進行し、過度な加熱によって促進されることがわかっています。
利用目的の違いと書いたのは、普段から結晶を溶かす習慣がある方や、加熱した鍋やフライパンにはちみつを投入する習慣がある方は非加熱はちみつである必要はありません。栄養素は一般的な湯煎温度では壊れません。また酵素はもともと栄養ではありません。逆に栄養素を変質させる要因があるとするならば酵母菌や付随する酵素の働きです。もし、はちみつからビタミンを接種したいのならばヒト思いに加熱殺菌をお勧めします。
はちみつの風味は、糖ならではの甘味と、酸味(ブドウ糖由来の有機酸)、微量ながらもミネラルの含有量(蜜源植物の違い)は渋味や苦味、加えて色味の違いにあらわれます。香気成分は多岐に渡るため一概には言えませんが揮発性があるため、加熱の有無にかかわらず、日数の経過で風味、色味も少しずつ変わっていきます。あらかじめご了承お願い致します。

ラベル貼ってお届け。
※6、メイラード反応という。加熱調理で芳しい香りなる食材は大体これ。
※7、カラメル化反応と呼べなくもないですが、一般的に直火のような加熱温度で起きる糖の反応です。はちみつのような酸性下では室温でも進行します。特に夏の外気温、気温の高い外国で採れるはちみつ、蜜源植物によって反応の程度は様々です。H.M.Fの数値(果糖が減り、H.M.Fが増加)は過度な加熱時間の有無を調べる指標とされています。
6,最後に
弊社でも非加熱はちみつを扱っておりますが「国産アカシヤ蜜」のみです。もちろん湯煎した「国産アカシヤ蜜」もございます。理由はアカシヤ蜜が結晶しづらいはちみつのため湯煎をしなくても良いからです(ろ過は時間をかけて実施します)。
加熱や非加熱という言葉について、日本では定義や基準が定められているわけではなく、各メーカー様独自の基準の温度を設けているようです。弊社ではシンプルな作業工程と安心・安全なはちみつを届けることを優先としており、無駄な加温はシンプルな工程とは逆の行為であることに加え、元を正せば湯煎温度は加熱と呼ぶには程遠く、初めから加熱していない商品を「非加熱」として謳うことは「誇大表現」と考えております。
ちなみに弊社の加熱基準は「温度」ではなく、「湯煎の有無」ですが、なぜなら、
ミツバチは湯煎をしないからです。
