はちみつにカビが生えないのは何故?
ミツバチは冷蔵庫を持っていない
はちみつは保存性に優れているといわれます。実際に冷蔵庫で保管しなくてもいつでも食べることが出来るので、欧米では家庭のキッチンに限らず、食卓に備え付け状態、見方によっては一種のインテリアのような扱いです。「table honey(テーブルハニー)」なんて言葉はまさに食文化が表れています。日本でいうところの醤油、食卓塩みたいなもんです。でもなんでテーブルの上に置きっぱなしでも良いのか。冷蔵庫は要らない?賞味期限は?消費期限は?殺菌・滅菌はしないの?開封した後でも大丈夫?そんな疑問にまずはいくつかはちみつについてお話を。
◆はちみつの水分量
はちみつは他の食材と比べても含まれる水分量が少ないです。およそ20パーセント前後の水分量で構成されています。残りの80パーセントがほとんど糖分です。水分が少ないということは微生物が活動、または繁殖する場所が少ないと言い換えても良いと思います。なんとなく水気が無い所には細菌って繁殖しないよなーくらいに考えてもらえればと思います。
◆はちみつの糖分量
上記、水分量の言い換えになりますがはちみつは他の食材と比べても含まれる糖分量が多いです。水分と分けましたが実は水と糖には密接な関係があります。糖(特に果糖)には、難しい言葉ですが「水分活性」を低下させる働きがあります。「吸湿性」や「浸透圧」なんて言葉でも説明できますが、ここでも簡単に言えば微生物が活動、または繁殖する場所が少ないと言い換えても良いです。食品としてただでさえ水分が少ないのに高濃度の糖分との合わせ技によって微生物が好む生育環境を奪っていると考えてもらえればと思います。くわしくは
◆はちみつの水素イオン濃度
難しい言葉を使いましたが食品の酸性、中性、アルカリ性を示す言葉です。はちみつは巣箱の中で熟成される過程で「弱酸性」の性質を帯びます。いわゆるph(ペーハー)記号を用いるとはちみつは3.2ph~4.5ph程度。参考までにレモンやお酢で2.0ph~3.0ph程度。酸性の性質で除菌効果を謳った商品を見かけますが、細菌は酸を嫌うと考えてもらえればと思います。ちなみにはちみつはアルカリ性食材として知られます。くわしくは
◆酵素の働き
3の補足にもなりますが、はちみつはミツバチが持つ様々な酵素が作用して出来上がります。弱酸性の性質を帯びるのは酵素の働きによって酸(有機酸ともいいます。クエン酸は聞いたことがあるでしょうか?)が生成された結果であり、中でも含む有機酸70パーセントを占めるグルコン酸が生成される過程では過酸化水素も発生することが知られています。グルコン酸はブドウ糖からラクトン酸(グラコノラクトン)を経て生成されますが、つまり、ブドウ糖の塊であるはちみつは、自前でかなりの抗菌力を備えた状態です。この働きを持つ酵素をグルコースオキシターゼと言います。過酸化水素なんて難しい言葉ですが、薬局で見かけるオキシドール消毒液と名前、働きが似ているくらいに覚えてもらえれば良いと思います。
◆補足◆
熱に弱いとされる酵素に関しては、加熱以前に月日の経過でも減少するという難しい問題もあります。正しくは酵素活性が低下すると理解してください。光の照射にも影響を受けていると思います。せっかくの過酸化水素も酵素カタラーゼ※の働きによって徐々に分解されてしまいます。酵素グルコースオキシターゼ※が大好きなブドウ糖、の生成に作用する酵素インベルターゼ※も、月日の経過で減少してしまいます。永遠にブドウ糖と果糖を生成してくれるわけではなく、過酸化水素が発生するわけではありません。当たり前の話ですがショ糖が少なくなればインベルターゼが多くある必要ありません。もとよりはちみつのような少ない水分(高糖濃度)と弱酸性の条件下では酵素はあまり働いてくれません。酵素ははちみつを作るという大仕事を終えると活性は徐々に悪くなるという意味です。なので、酵素を活性化させるために水分で希釈した利用方法が知られています。また抗菌抗炎症作用として、グルコースオキシターゼに限らず、糖の性質や含まれるフラボノイドを利用して、口唇や皮膚の熱傷、創傷治癒を促すために塗布するという利用方法がありますが、はちみつの保管とは少ーし話が逸れる(その効果以前にもったいない!)のでここでは省きます。なんとなく食べたときに咽喉の痛みに効きそうな理由として頭の隅にでも置いてください。
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※酵素インベルターゼ:花蜜(ショ糖)からブドウ糖と果糖を生成
※酵素グルコースオキシターゼ:ブドウ糖からグルコン酸と過酸化水素を生成
※酵素カタラーゼ:過酸化水素を分解
ミツバチははちみつを冷蔵庫に入れない
これら理由から、私たちも冷蔵保存する必要がありません。極端な光の曝露は成分の変化を起こすので直射日光の当たらない屋内(暗所が好ましい)であれば常温保存で問題ありません。ちなみに多湿なところははちみつに限らずお勧めしません。
賞味期限や消費期限は制度上明記する必要があるのですが、賞味期限があれば、消費期限についてその限りではありません。賞味期限はあくまでも賞味期限であり、風味を損なうことなく食べられる期限であり、販売者によってですが3年以上設けるなど様々です。例として挙げるのに正しいか悩みますが精製された白砂糖やお塩に消費期限が必要無いのと、はちみつも似ています。
普段ご利用される程度で開封を繰り返しても問題ありません。開封後だからといってすぐに食べる必要もありません。そのつど清潔なスプーン等を使用することをお勧めしますが、使用後に蓋をせず放置するようなことが無ければ問題ありません。
◆補足◆
保存に使用する容器についてスチール製容器はお勧めしません。光の照射を防ぐ効果はありますが長期保存に渡るとはちみつの酸度によって錆の原因、風味を損ねる原因にもなります。スチール製容器自体はあまり見かけませんが内面に保存用のコーティング塗装が施されているものの、使用環境によっては金属の部分が露出してしまいます。同様の措置が施されたスチール製キャップは広く使用されますが新しい物であれば神経質にならなくても良いです。ただ使用程度によってそのつど新しい物に取り換えるか、保存はやはり基本はガラス製容器(ポリプロピレンのような樹脂製容器も酸やアルカリに比較的強い)を使用し、金属製容器を使用する際はステンレス製のものであるかご確認ください。 |
はちみつは自然由来を謳う故に、無菌状態ではありません。低い水分活性でも存在できる微生物、加熱処理でも死滅しづらいボツリヌス菌(芽胞)が存在することも確かです。ですが一般的に殺菌や滅菌処理をはちみつ製品に対して施しません。真空パックはボツリヌス菌が酸素を嫌う性質(嫌気性)がある都合上、逆効果です。またグルコースオキシターゼが活性し、過酸化水素を発生させるには水分に加え、酸素を必要とします。よって保存容器内、はちみつは低水分量ではありますが、空気(微量な水分)に触れているはちみつ表面部分では若干の酵素反応を示しているようです。決して強くはありませんが長期保存の要因の一つとして考えられています。つまりそれら細菌類を抑え込むだけの抗菌力を、はちみつは持っていると考えて良いと思います。ただ弊社では、はちみつはあくまでも食用であり、加熱、非加熱に限らずはちみつの酵素グルコースオキシターゼによる抗菌作用を謳った販売はしておりません。長期保存を可能とする抗菌作用は、はちみつが備える高糖分と低水分、酸の濃度によるものと考えます。酵素全般に言えることですが、製造環境に限らず、ミツバチの生育環境、蜜源植物による違いを始めとした採蜜環境、保存環境、時間の経過を含めたあらゆる要因が複雑に影響し、作用にすると考えております。
しかしマヌカはちみつに至っては「殺菌力」という言葉が使用されます。詳しくは
本来はちみつはプロポリスで出来た巣房の中で貯蔵されています。人間は冷蔵庫を発明しましたが、未だプロポリスを作り出すことはできません。ミツバチにしか作れない、このはちみつ専用の貯蔵庫プロポリスの抗菌作用について詳しくは
ここで気付いた方がいるかもしれませんが、はちみつが冷蔵保存を必要とするケースがあります。それはご自身、ご家庭で作る「はちみつの〇〇漬け」です。酵母菌が働く環境にある場合と考えてください。理由はシンプルに水分量が増えるからです。とっても美味しいのですが、はちみつからしてみれば大きな不純物の塊(菌の塊)が混じった状態です。糖の濃度も減少し、あらゆる微生物が活動、生育できる場所が出来上がってしまいます。この時、漬けた内容物由来の酵母菌、はちみつ由来(蜜源植物由来)の酵母菌も活動を始め、発酵し、炭酸ガスが発生します。おそらくグルコースオキシターゼも頑張ってるはずですが途中で力尽きるはずです。炭酸ガスが発生しなくなった頃、この時点ではちみつは、はちみつではないナニカ。半分ハちミつと考えて、水分量にもよりますがエキス抽出後は冷蔵庫で保存し、カビが発生する前にお早めに召し上がりください。くわしくは
最近の冷蔵庫も機能的でより便利になりましたがはちみつには無縁です。
はちみつを一歳未満の乳幼児にはちみつは与えていけない理由は、微生物を体外に排出するだけの腸内環境が整っていないためです。 |